ホーム > > 特集:ひと > 私の〝であいもん〟

私の〝であいもん〟

「ニシンとナス」「タケノコとワカメ」のように、組み合わせることでおいしさが増すものを〝であいもん〟と呼びますね。料理だけではなく私たちにも、合わさることでそれぞれの魅力をさらに発揮できることはあるのでは? そんなエピソードを持つ人々を紹介しましょう。あなたの〝であいもん〟も、すぐそばにあるかもしれませんよ。

起業を後押しした活版印刷機。時代に合った新製品も/「りてん堂」村田良平さん

活版印刷機「チャンドラー」と村田良平さん。「インクの量や練り具合、圧力のかけ方など、難しいところがいっぱい。まだまだ勉強中です」

一文字ずつ活字を組み合わせて作った活版を機械にセットして、1枚1枚刷る活版印刷。現在はコンピューターが主流となっているため、使われることはあまりありません。ですが、グラフィックデザイン工房「りてん堂」の村田良平さん(40歳)は、この活版印刷機とともに、新しい道を歩むことになりました。

もともと冊子のデザインをする仕事をしていたころから、活版印刷に興味を持っていた村田さん。仕事の傍ら、印刷所で活版印刷について教えてもらっていたそう。ところが、その印刷所が廃業することに。このまま活版印刷機が処分されてしまうなら自分がと、村田さんは機械を譲り受け、デザイン事務所を開く決意をしました。

「いつか独立をと思ってはいたのですが、活版印刷は技術を持っている人が廃業するほど、需要のない業種。しかも印刷機本体、何万個とある活字となると、重さもあり、広さも必要で、最初は悩みました。でもデザイナーとして活版印刷に可能性があると感じて」と村田さん。2012年、左京区一乗寺に「りてん堂」をオープン。現在はグラフィックデザインと活版印刷を行っています。

今では村田さんがデザインをした図柄と活字を組み合わせてオリジナルのポストカードなどを製作。50年以上使いこまれた機械は、まだまだ現役。村田さんのアイデアによって、新しい印刷物を作り出しています。

植物や石、貝殻など〝自然の美〟をアクセサリーに/「e.n.s」川井有紗さん

近くの道路や公園のほか、山や海にも素材集めにでかけるそう。「素材を拾っているときは宝探しをしているような気持ち」。身に着けているのはサンゴのネックレス

「時間にゆとりができたとき、以前から歩いていた場所の景色が違って見えたんです」と話すのは川井有紗さん(31歳)。拾い集めた草木や花、石、貝殻などを使ってアクセサリーを作るアーティストです。

京都造形芸術大学を卒業後、就職。仲間にも恵まれ充実しているにもかかわらず、毎日のスピードの速さに戸惑い、本当の自分との距離を感じるように。そして5年前に退職。そのとき気が付いたのは、身の周りにある自然の美しさだったとか。「葉っぱ、木の実、根っこ。生きている姿も、枯れ行く姿も、枯れた後の姿もすべてが美しく見えました」(川井さん)

「植物を編む」と名付けられたネックレス。プロテアの花びらと絹糸を編んだもの(外側)、アカネの根と絹糸を編んだもの(内側)

初めは目的なくそれらを拾い集めていたものの、次第にアクセサリーにして身に着けたいという創作意欲がわき、作品作りに夢中になったそう。以来全国で個展を開きながら作品を発表しています。

2年前には、作品の販売もするアトリエを南区の東寺近くにオープン。花びらを組み込んだネックレス、種や木の実に純金箔(きんぱく)を施したピアスのほか、オブジェなどのアート作品もディスプレーされています。どれも普段は見過ごしてしまいそうな何げない素材ですが、川井さんが光をあてることで、その美しさに気付かされます。

「できるだけそのままで。無理に手を入れないようにしています。そうしていると、人も自然に生きていいんだよって感じさせてくれるんです」

栽培農家一軒の危機にひんした桂ウリ。高校生パワーで注目度アップ/京都府立桂高等学校 京の伝統野菜を守る研究班

甘いメロンのような香りを放つ桂ウリは、大きくなると40センチ以上に。収穫後は追熟して、真空パックで冷凍保存しています。左から長尾万葉さん、堀絢菜さん

京都の伝統野菜を栽培し、種子の保存や販売などを行う京都府立桂高等学校「京の伝統野菜を守る研究班」。2、3年生の生徒17人が参加し、さまざまな京野菜を栽培しています。なかでも注目を集めているのが、桂ウリです。

奈良漬に使われてきたことでも知られる桂ウリ。しかし虫が付きやすいことや、病気に弱いことなどから栽培農家が減少していました。

同研究班がこの野菜と出会ったのは4年前。京野菜の栽培を種の採取からしている農家を探していたところ、当時、桂ウリを栽培していた唯一の農家が貴重な種を分けてくれたのです。

4月に種をまき、7月~8月下旬の収穫まで、水やりや除草などが続く桂ウリの栽培作業。授業でも一部作業しますが、授業前と放課後にも野菜の世話は続きます。

「朝早くから作業があり大変ですが、この夏は100本以上収穫できました!」(研究班の堀絢菜さん・植物クリエイト科2年)

また、長く受け継がれるために、もっと需要がある野菜にしようと企業とコラボレーション。桂ウリの加工品の開発にも一役買っています。今や漬物のほか、ケーキなどお菓子にも利用され、栽培農家も以前より増加したそう。

「農家の方やいろいろな人の思いが詰まったこの野菜を、次の世代へとつなげていきたい」と、同研究班の長尾万葉さん(園芸ビジネス科2年)。高校生たちの熱意によって広まっていった桂ウリが、これからも受け継がれていきます。

このページのトップへ