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試写室・劇場から

ゆずり葉の頃

7月25日(土)から京都シネマで公開

人生の夕暮れに照り返る、大切な思い出と出会う旅

故・岡本喜八監督の妻であり、映画プロデューサーとして活躍してきた岡本みね子が、中みね子の名で初監督した注目作。年輪を重ねてこそにじみ出せるものがあるのだと思う一方、なんとみずみずしい光を放っているのかと感嘆した。

海外で働く進(風間トオル)は一時帰国し、一人暮らしの母のもとを訪ねたが留守だった。母の市子(八千草薫)は軽井沢で開かれる美術展に行ったらしい。母の部屋にあったその個展の記事と画集を見て、進は母の“なぞ”を追うように、軽井沢に向かうが…。

八千草薫さんは、その類いまれな気品と童女のようなまなざしで、実に特別な女優さんだと思う。少女時代の思い出を抱きしめている市子をのびやかに演じ、見とれてしまう。心がやわらかで、周囲の人々が寄り添ってくるようなこの女性像は、一般的な老境のイメージをはね返すほどに魅力的で、それゆえに彼女は思いを果たせたのだ。

山下洋輔による詩情豊かな音楽、思い出の池に広がる水紋などの美しい映像。そして、仲代達矢、岸部一徳ほか味のある役者もそろった。日本美術界の第一人者・宮 正明による劇中画とともに、切ないダンスシーンを伴奏する特大オルゴールなど、監督の美的感性で選ばれた重要な脇役にも目を凝らしてほしい。

(ライター 宮田彩未 

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