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京の年末年始を支える仕事人

師走から正月にかけて、あちこちで見かけられる京都ならではの風景。寺社などの行事はもちろん、家庭での正月準備にも独自の伝統や文化が受け継がれています。それらを支える、6人の〝仕事人〟たちを取材しました。

唯一無二の文字とともに〝まねき書き〟を守り継ぐ

勘亭流書家 井上玉清さん(74歳)

何枚も重ねられた板に下書きもなく、すいすいと筆を進める井上さん。「書き方は師匠のを見て覚えたんです」

大人の背丈ほどもある大きな板にまたがった井上玉清(ぎょくせい)さん。迷いない筆さばきで書いているのは歌舞伎役者の名前です。

これは、南座の「吉例顔見世興行」で劇場前に掲げられる〝まねき看板〟。10月末から書き始め、11月末のまねき上げまでに約50枚を仕上げます。「書く3、4日前に墨を作り始めます。そうすると気持ちが整ってくるんですよ」

今年で6年目という井上さん。「大正末期に師匠がこの〝まねき書き〟を請け負い、兄弟子、弟弟子へと受け継がれて私で4代目になります」

用いられるのは勘亭流(かんていりゅう)と呼ばれる独特の書体。江戸で生まれたという勘亭流ですが、「まねきが上がったときに見栄えがいいように、師匠が少しアレンジしたんですよ」。現役のフォントデザイナーでもある井上さんは、「不要な線がなく、よく考えられたデザイン。この文字は特別ですね」と話します。

「師匠から弟子へ、約100年受け継いできたこの文字を大切に、〝まねき書き〟の伝統をつないでいきたいですね」

  • 太く隙間なく書く勘亭流は、「劇場が隅々まで大入りになるように」と縁起を担いだもの。「字というより模様を描いている感覚」だそう

  • 今年も11月末にまねきが上がった南座。見られるのは12月26日(木)の千秋楽まで

〝大福梅〟に無病息災の願いを込めて

北野天満宮 巫女 伊藤友香さん(26歳)

約6粒ずつ、縁起物の裏白を添えて、のしで丁寧に包んでいきます。「包むときも、参拝する人の一年間の健康を願いながら行います」と伊藤さん(中央奥)

包む数は約3万袋にも。12月13日から終い天神の25日(水)のころまで、1袋700円で授与(なくなり次第終了)

紅葉彩る11月下旬、〝北野の天神さん〟では今年も「大福梅」(おおふくうめ)をのしに包む調整が行われていました。

境内に1500本ものウメの木が植えられている北野天満宮。毎年その実で梅干しを作り、「大福梅」として一般に授与しています。それをお茶に入れた「大福茶」は、一年の無病息災を願って飲む正月の縁起物。

6月から始まる実の採取、塩漬け、土用干し、調整といった一連の〝梅仕事〟には、神職と巫女(みこ)総出で当たるそう。携わって6年という巫女の伊藤友香(ともか)さんは、「大変なのはやはり土用干しでしょうか。真夏に毎日梅を一つ一つ裏返して、雨が降りそうになれば急いで中に運んで。体力が必要ですね」と教えてくれました。

授与の初日には、開門前から行列ができることも。「窓口を開けた瞬間、待っていらっしゃった方のうれしそうな顔が見えると、大変だったご奉仕もがんばってよかったと思います」

伊藤さん自身も、正月にはかならず大福茶を飲むそう。「元日は早朝から出勤ですので、まだ寝ている家族の分や、職員一同の健康も願って飲んでいます」

〝えびいも〟ならではの形は暑さに耐えて作るもの

えびいも生産農家 古川雅広さん(55歳)

(左)丹精込めて育てたえびいもを見せてくれた古川さん。年末にかけて京都はもちろん東京にも約4トンを出荷する予定
(右)出荷前に家族3人で一個一個拭き上げます。えびいもの特徴のしま模様が消えないよう横方向にやさしく拭くのがコツ

ぼうだらと炊いたりお雑煮に入れたりと、京都の正月料理には欠かせない〝えびいも〟。府下随一の産地という山城地区の京田辺市に、古川雅広さんの畑はあります。

「収穫は11月から1月まで行います」。そういって、一株掘り返して見せてくれた古川さん。親芋の周りにたくさんの子芋がついています。

「えびいも作りで特に大変なのは、この親芋と子芋の間に土を入れる作業。うまく入れないとエビのようにきれいに曲がりません」。この作業を行うのは初夏。背丈ほど伸びた葉の下は蒸し暑く、ファン付きの上着を着てしのいでいるそう。

親からえびいも作りを受け継いで5年。肥料の量など工夫した結果、「ほかとは甘味が違うと、毎年指名買いするお客さんもいてくれます」。

大きいものは一つ700〜800円にもなるそうですが、孫芋とよばれる小さなもの「こえびちゃん」(右端写真手前)は百貨店や錦市場などで気軽に手に取れるとか。

「京都のブランド野菜としておいしいものを作って、たくさんの人に味わってほしいですね」

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