健康診断では、ヘモグロビンの数値が成人男性で13g/㎗、成人女性で12g/㎗、高齢者、妊娠中の女性で11g/㎗未満だと「貧血」とされます。黒田さんによると、ヘモグロビンの数値は正常の範囲内でも、鉄分が不足している場合があるとか。
「食事から体内に取り込まれた鉄分の6割以上はヘモグロビンに使われ、残りの3~4割は『貯蔵鉄』として貯蓄。鉄分が不足し始めると、ヘモグロビンを減らさないようにと、まずこの貯蔵鉄が使われていきます。ヘモグロビンは十分にあるのに貯蔵鉄が少なくなっている状態を『潜在性鉄欠乏症』と呼びます」
最近、この状態を指す「かくれ貧血」という言葉をよく見かけますが、医学用語ではないそう。
「潜在性鉄欠乏症はヘモグロビンの数値から見ても貧血ではないので、適切な呼び方とはいえないでしょう」
潜在性鉄欠乏の状態であっても、必ずしも不調が起こるわけではありません。ただ、なかには爪の変形、冷え、精神的症状といった貧血以外の鉄分不足の症状が強く現れる人も。
貧血と診断されていなくても、注意しておきたいですね。
誰でも鉄分不足になる可能性はあるものの、特に鉄分が不足しやすいのが「鉄分の吸収量が少なすぎる人と、排出量が多すぎる人」。
「前者は極端なダイエットをしている、食生活が偏っている、胃がんなどで胃を切除した、ピロリ菌に感染していて胃酸の分泌が不十分、といった人など。
後者は、多量の汗をかくアスリート、胃がんや大腸ポリープなどで慢性的な出血がある人、子宮内膜症、子宮筋腫、過多月経などの婦人科系疾患がある人などです。赤ちゃんに栄養を取られる妊娠中の女性も気をつけてください」(黒田さん)
予防するには、毎日の食事から鉄分を摂取するのが基本。すでに鉄分不足の症状が出ている場合は、「まずは根本原因を見つけることが大切です。症状に応じて、内科や婦人科、皮膚科などの受診を」と黒田さん。
「検査や診察で鉄分不足が疑われたら、原因に応じた対策が必要。食事の偏りが原因なら食生活を見直し、子宮内膜症が原因ならその治療を受けるようにしましょう」
症状の程度や検査の数値によっては、鉄剤(鉄分を配合した薬)が処方されることもあるといいます。
京都府栄養士会理事
管理栄養士
宮崎圭子さん
鉄分不足を予防・改善するために大事な食事。京都府栄養士会理事で管理栄養士の宮崎圭子さんに、ポイントを聞きました。
「鉄分は、主に肉やレバー、魚介類などの動物性食品に含まれる『ヘム鉄』と、野菜や海藻、豆類などに含まれる『非へム鉄』の2種類に分けられます。
このうち、体内への吸収率がより高いのがヘム鉄。ヘム鉄も非ヘム鉄も、良質のタンパク質、ビタミンCとともに取ると吸収率が高まり、効率よく摂取できます。
バランスのとれた食生活を心掛けながら、これらの栄養素を上手く組み合わせて取ることが大切。おにぎりや丼、麺類といったメニューには、ヒジキ、枝豆、ノリなど鉄分が豊富な食材を使った一品をプラスするといいですよ。
コーヒーや紅茶、緑茶に多く含まれるカフェインやタンニンには、鉄分の吸収を妨げる作用が。鉄分不足が気になる人は、食事と一緒に飲むのは控えましょう」
左の宮崎さんおすすめレシピも試してみて。
マグロ、枝豆には鉄分がたっぷり。ビタミンCを含む野菜やレモンを合わせた一品です
「ヘム鉄」が豊富なレバーと「非ヘム鉄」を含むヒジキが一緒にとれます