いにしえの京の伝統を現代に受け継ぐ、和菓子。この和菓子の世界に、いま新しい動きが出てきています。和菓子で個展を開く若い職人さん、他業種とのコラボが人気を呼んでいる老舗など、ユニークな動きを紹介しましょう。
「和菓子は色や形で季節を表しますが、日常生活でも色で認識していることがたくさんあるんじゃないかと思って」と、今年2月「色を喰らう。」と題した和菓子の個展を開いた青山洋子(ひろこ)さん。上七軒にある「老松」の和菓子職人です。
色とりどりのおもちゃや道路標識、理髪店の前によく置いてある、赤、白、青の回転看板など、青山さんの個展には、お店で見かける和菓子とは違う、ユニークな作品がずらり。これって和菓子!?と驚かされます。
「残念ながら茶道をしている人以外は、和菓子に接する機会が少ないんです。こういった表現が和菓子でできるんだと、若い世代の人たちにも興味をもってもらえたらうれしいですね」
しかし、個展はあくまで個人の活動。「老松で修行している基本があるからこそ」という青山さん。この気持ちを支えているのは、製菓専門学校に通っていたときに講義で聞いた、同店社長の「茶席のお菓子は依頼主とコミュニケーションをとりながら作り上げる、その席だけの特別なもの」という言葉。このとき「これこそ思い描いていたもの作りだ!」と感じて和菓子の職人の道に進んだのだそう。「作品を作る“アーティスト”よりも、いろんな人の依頼を受けて、その気持ちに応える“職人”でありたい。まだまだ勉強です」
広告デザインなどを手がけるグラフィックデザイナーとして活動する木本勝也さん。仕事で経験した東京や海外での生活が、木本さんの目を和菓子に向けさせたそう。
「外側から見たことで、日本の素晴らしさを再認識しました。伝統文化を発展させる一翼をにないたいとの思いから、和菓子に興味がわいたんです」。なかでも何百年も受け継がれてきた落雁(らくがん)の意匠が持つ造形美が、木本さんを魅了したといいます。
2年前から独学で勉強し、知り合いの和菓子職人の指導を受けて落雁作りを習得。「たくさんの老舗が軒を連ねる京都では、同じものを作ってもかなうはずがありません。やるからには、和菓子の枠の中で、とびっきり新しいことをしたい」と、誕生したのが「UCHU wagashi」。ココアやバニラ味の動物形や、カラフルなおうぎ形のピースを組み合わせて好きな形を作るものなど、木本さんが作る落雁は遊び心がいっぱいです。
さすがはデザイナーと、そのかわいい見た目に注目してしまいますが、目指すのは人をわくわくさせたり、幸せにする和菓子。「かわいいだけではダメ。『和菓子がこんなふうに!』という驚きが大切」と楽しそう。木本さん自身もわくわくしながら取り組んでいる様子が伝わってきました。
「甘春堂」で和菓子職人として働きながら「仕事以外にもいろんなつながりを」と、年1回のペースで個展を開催している濱田一信さん。高校で美術を学び、自身でも絵を描く濱田さんが、2007年、初個展のテーマに据えたのが、日本画家・東山魁夷の作品を和菓子で表現すること。
「絵をそのままではなく、抽象化して、この小さな和菓子の中に思いを込めます。和菓子は『そぎ落としの美』。どこまでそぐか、どこまで個性を出すかが、難しいですね」。例えば、東山魁夷の「道」という作品をイメージした和菓子は、美しい丸形に、道と山並みをデザインしたシンプルなもの。「遠くの山まで道が一本すっとのびて、その道の先にもまた別の世界がある、絵を見てそんなふうに感じて…。その無限に続く世界を丸い形で表しています」と濱田さん。
この個展は京都で好評を得て、東京でも開催。その後は詩人とコラボレーションするなど、毎年さまざまな表現に挑戦しています。こうした活動で得た刺激は、新しい商品の試作など、仕事にも役立っているそう。