京都の紅葉、人気のワケは?

木々の緑と〝自然のまま〟で共存しています

高雄保勝会会長・山本信さん

高雄の神護寺金堂に続く石段と、段々に連なる紅葉。山本さんによると、標高が高いこのエリアは市街地より一足早く紅葉が始まるそう

「高雄の紅葉は、西向きの神護寺参道と西明寺の釣り鐘あたりから始まります」と高雄保勝会会長の山本信(まこと)さん。

関西有数のモミジの名所・高雄。京都の西北、清滝川に沿って位置する高雄(神護寺)、槇尾(西明寺)、栂尾(高山寺)の3エリアを合わせて〝三尾(さんび)〟といいますが、一般的に「高雄」の総称で親しまれているそうです。

高雄のモミジは「イロハモミジ」という自生種で、別名「タカオモミジ」。

「小さい葉っぱが幾重にも折り重なり、紅葉のグラデーションが非常に美しい。同じ山に生えているマツやスギなどの木々の緑の中にあるため、より紅葉が映えるという自然のままの景観が特長です。町中の紅葉とは違う見ごたえを感じてもらえると思います」

高雄の紅葉がめでられるようになった歴史は定かではありませんが、16世紀に描かれた「高雄観楓図(たかおかんぷうず)」に人々が紅葉狩りを楽しむ様子を見ることができます。

「現在は老木が多いのですが、保勝会では山に自生する若木をこの老木の周囲に補植する取り組みを長年続けています。大切にしているのは、自然のままということ。世代交代の手助けをしているようなものですね」

高雄保勝会の会長を務めて約10年。本業は、1907年創業の料理旅館「もみぢ家」の社長で、神護寺、高山寺の信徒総代

山本さんの

お気に入りの
紅葉スポット

神護寺の茶屋周辺(京都市右京区)

昔も今も見られる、信仰心との結びつき

京都ノートルダム女子大学名誉教授・鳥居本幸代さん

「日本人の生活の中に根付いている信仰心が、京都の紅葉人気に影響しているのでは」と話すのは、京都ノートルダム女子大学名誉教授・鳥居本幸代さん。平安貴族から江戸時代の庶民まで、衣食住にわたる生活文化の歴史を研究しています。

「京都の紅葉の名所は禅宗寺院に多いのですが、紅葉というあでやかなひとときを経て散るモミジに無常観を見いだすことができます」

紅葉をそばで観賞する現代のような紅葉狩りが一般的に広まり、多くの人が足を運ぶようになったのは、江戸中期のころなのだとか。

「観光ガイドともいえる〝名所図会〟ができたのがきっかけです。特に京都は、寺社詣でもできるため人気に火が付いたよう。物見遊山だけではなく、信仰心も満足いく旅だったと思います」

歴史をさかのぼると、奈良時代は万葉の歌の題材、平安時代には貴族の装束の色にも紅葉が表現されていたことが分かっています。

「このころは、貴族は室内や舟から紅葉を観賞していたようです。室町時代になると、庶民がモミジの木の下で酒宴を開いていたという記録が残っています」。今の紅葉狩りの原形のようですね。

「現代では、紅葉の時期に、寺社の宝物の虫干しを兼ねた公開展示が実施されたり、本尊の御開帳が行われたりと、紅葉以外の見どころが多いのも特徴です」。そんなところも人気の理由なのかもしれません。

京都ノートルダム女子大学名誉教授。平安時代を中心に、服飾文化史や生活文化史を研究。京都探訪がライフワーク

鳥居本さんの

お気に入りの
紅葉スポット

東福寺(京都市東山区)

気温、川、日当たり。ポイントは自然環境

京都府立大学客員教授・松谷茂さん

森林生態学を研究する京都府立大学客員教授・松谷茂さんによると、京都の紅葉の人気の理由は〝地理的要因〟なのだとか。

「市街地のある京都盆地は、昼夜の気温差が大きく、鴨川と桂川という河川が流れているため適度な湿気があるなど、美しい紅葉のための自然条件が整っている土地柄。京都の三方にある山の緑と紅葉のコントラストが楽しめるのは、京都ならではの魅力ですね」と松谷さん。

「一方、市街地からは外れますが、高雄は山の傾斜地の下側にモミジが根を張り、まんべんなく樹木に日が当たりやすい地形。谷合いを清滝川が流れるなど、こちらもモミジが育つ条件に恵まれています」とのこと。

モミジとともに名前をよく聞くカエデについても尋ねてみました。その違いは?

「モミジは、本来、秋に植物の葉の色が変わる現象を指す言葉。カエデは、葉の形がカエルの手に似ていることから名前が付きました。ムクロジ科カエデ属の樹木は赤や黄色に〝モミジ〟する種が多く、紅葉するモミジの中で最も美しいのがカエデ属のイロハモミジといわれています」

ちなみに、タカオモミジ、イロハモミジ、タカオカエデ、イロハカエデは全て同じ種だそう。

「これまでの計測では、真夏に十分な日照があり、京都では1日の最低気温が5度ぐらいに冷え込み続け、適度な降水量と昼夜の気温差が10度前後あると、美しい紅葉が見られる可能性が高いですよ」

京都府立大学客員教授。京都府立植物園第9代園長を務め、現在は名誉園長としても活動。専門は森林生態学

松谷さんの

お気に入りの
紅葉スポット

唐戸渓谷(南丹市美山町)

寺社の庭園での観賞が、人生を見つめる機会に

庭師・北山安夫さん

庭師として、寺社の歴史ある庭園の修復、作庭に取り組む北山安夫さん。もちろん、「庭園作りに欠かせない」という紅葉を取り入れています。

「京都の寺社の庭園は、その空間に宗教的な思想を色濃く反映し、品格があります。庭園の紅葉を眺めたとき、華やかさを感じる人もいれば、散りゆく間際の切なさを連想する人もいるでしょう。自分の人生を紅葉に照らし合わせているといっても過言ではありません。そういった感動を求めて、京都の紅葉を訪ねてくるのでは」

北山さんは庭木を入れるとき、成長した姿を想像しながら、なるべく根のしっかりした樹勢の良い樹木を選んでいるのだそうです。

「ところが、モミジだけは成長後を想像するのが難しいんです。気温や湿度、地質で育ち方が全く違いますから」

そう話す北山さんが関わっている庭の一つが、国の史跡名勝に指定されている「高台寺庭園」。小堀遠州が作った池泉回遊式庭園の修復に30年前から携わっています。中門を入った脇には、枝を伸ばすイロハモミジが育っているそうですよ。

庭師。寺社の庭園の修復や作庭のほか、一般住宅の庭も幅広く手掛ける北山造園の代表

北山さんの

お気に入りの
紅葉スポット

高台寺庭園、高台寺塔頭(たっちゅう) 圓徳院の庭園(京都市東山区)

このページのトップへ