避難情報に備えて〝心〟の準備も


心の〝避難スイッチ〟をオンにするきっかけ

「最近ではかなり細かく出せるようになりましたが、自治体の避難情報は地区や学区に対して出されます。そこに住む一人一人に対して、『あなたは避難したほうがいい』『あなたは大丈夫』と言うことはできません。だから『避難情報が出ているけれど自分のいる場所は大丈夫』といった気持ちが生まれるのです。それを危ないかもしれないから避難しようと一歩踏み出すためには、行政から避難情報が出るほかにも、心を動かすきっかけが必要」と矢守さん。

異変を感じる力を持つ

そのきっかけの一つが、身の回りの異変への気付き。「大雨が降ると『側溝の水があふれる』『地下駐車場に勢いよく水が流れ込む』というような場所はありませんか? そういった情報を地域の人たちで共有しておいて、こうなったら危険だから避難をしたほうがいいなどと話し合っておくことも有効だと思います。その際、できれば専門家にも相談をしてください。『確かにあそこは海抜が低い』など、専門家の意見が得られると、その基準が確かなものだと信頼できます」

加えて、友達や親戚から「ニュースで見たけど大丈夫?」「避難をしたほうがいいんじゃない?」といった電話やメールをもらうことも心を動かすきっかけになるとか。

「避難情報が出た、前に地域で話し合った場所も危ない状態になっている、周りの人も心配して連絡してきている。こうしてきっかけをたくさん与えられて、ようやく〝避難スイッチ〟が押されるんです」

〝最善〟が無理でも〝次善(セカンドベスト)〟の策を

避難を迷っているうちにタイミングを逃してしまった…ということもあるかもしれません。そうなったときにも何とかするという避難手段を持つことも大切だそう。

「例えば、避難所へ行くのがもはや難しいという場合に、2階に避難するとします。しかし高齢者や体の不自由な方は階段を上がることは容易ではありません。2階へ上がるときにはどういう手助けが必要なのか、確認しておきましょう。また、避難所は無理でも近くのマンションやビルへは行けるかもしれません。〝最善〟が使えないときの〝次善(セカンドベスト)〟を考えて、そこへの避難も訓練しておくといいでしょう」

ハザードマップは判断基準の一つ

災害の際、避難に関する情報が出ていても迷うのが、避難所へ行くのか、自宅の安全な場所にいるのかという判断。矢守さんによると、その判断をする際に役立ててほしいのが「ハザードマップ」。「浸水についていえば、ハザードマップで自分の住んでいる地域の予想浸水深を確認してください。3mを超える浸水が予想されるところは、2階に避難しても安全ではない可能性があります」

そして、避難所へ行かないという選択をした場合にも準備は必要。「自宅にいるというのは、いわば籠城作戦。それに伴うマイナス面もあります。停電したり、断水したりすると、しばらく通常の暮らしはできません。非常時用の水や食料、簡易トイレなど、必要なものを準備しておく必要があります」

避難した経験がいざというときに役に立つ

自治体からの避難情報が出て避難をしても、実際は何も起こらなかったということもよくありますね。「それは〝空振り〟ではなくて、〝素振り〟だと捉えて」と矢守さんは言います。

これまでさまざまな被災地を訪れ、矢守さんが耳にしたのは、やはり「こんな災害は初めて」「こんなことになると思わなかった」という言葉だそう。

「そう大きな災害は頻繁に起こるわけではない。ですが、一番肝心なときにちゃんと避難できるようにするためには、『危険が予想されるときには逃げる』『逃げるルートや避難所を確認しておく』ことが大切なんです。避難したけど何も起こらなかったとしたら、それも災害が起きたときに速やかに避難するための訓練、〝素振り〟だと思ってください」

経験を積んでおくことが、いざというときのスムーズな行動につながるのですね。

京都大学防災研究所 巨大災害研究センター
教授・矢守克也さん

「避難所へ行かないことが、必ずしも何もしていないというわけではありません。自分がどういう場所に住んでいるかによって、指定された避難所へ行った方がいいのかどうかは変わります。ですから、(1ページ目のアンケート結果も)数字だけを見て『対応してない』ということは言えません。避難情報が出たから避難する、出ていないから避難しない、ということではなく、行政が出す避難情報を参考に、避難するかどうかは自分で決めるものだという意識を持ってほしいと思います」

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