実家の片付けどうしてますか?

判断は親に任せて、一緒に片付けを

では具体的にどのように片付けを進めればいいのでしょう。場所ごとの片付けのコツを古田さんに教えてもらいました。

「やらなければと思っている親は多いのです。その一歩が踏み出せなかったり、体力的に難しかったりするだけ。目標を決めることで取り組みやすくなります」

その目標というのが、「今使う物」だけにすること。

「親に、『いる物』『いらない物』『判断に迷う物』『置き場所を移動する物』の4種類のどれに該当するか判断してもらいましょう。『いる物』と『置き場所を移動する物』は適切な場所へ。『いらない物』は処分を。『判断に迷う物』はまとめて箱へ。半年ほどの時間を置いてこの中を再度チェックすると、『いらない物』に変化することが多いので、そのタイミングで処分します」

とはいえ、いったん片付いても、同じ状況が続くわけではありません。

「年に数回しか実家に帰らない人でも、『何か手伝えることはある?』『必要なものは?』とコミュニケーションをとりながら、よい状態をつくっていってください」

乗らない自転車やバイク、割れた鉢などが置きっぱなしなら、それは「いらない物」。たくさんある靴は、げた箱に入るだけの量が目安です。靴は、親が「いる」といったら実際に履いてもらいましょう。もし履けなければ、意外なほど「いらない物」に変化します。
物を置く場所を決める〝定位置管理〟を徹底して、物を使ったら元に戻すことを約束し合いましょう。置き場所を決めるのは、親です。

ため込んだ新聞は、親には重くて運べない場合もあります。「持って帰るね」と声をかけて、自宅で処分するのも心遣いです。
親が普段使っている場所に物を収めるのが基本です。ゴミ袋やラップ類などストックが大量にあるときは、収納場所を決めて、そこに入るだけの量に。明らかにキッチンに置く必要のない物は、別の場所へ「移動」させます。
物が大量に入っていても「いらない物」と分かっていれば、片付けは一番後回しに。ですが、親から「押し入れを片付けたい」と言われれば、先に取り掛かっても構いません。

自分の子どものころの思い出の品が実家に残っているなら、持ち帰るのもOK。親にとって、子どもの思い出の品は置いておくのがいいか判断しかねるものです。

A
すずらんさんのケース
「もしものことを心配している」という気持ちを伝えてみてください。一緒に作業していてトラブルになった場合は、いったんやめて別のことに取り掛かれば、お互いに気持ちの切り替えがしやすいと思います
B
ぐどんママさんのケース
思い出の品は写真に撮ってアルバムを作ってあげると、収納スペースの節約になります。アルバムの写真を見ながら、思い出を語り合うこともできるので一石二鳥
C
Rさんのケース
Rさんのように、よかれと思って整理しても、親から怒られることもあります。そんなときは無理しなくていいですよ。チャンスは、探し物をするときに協力を求められた場合。「見つけやすいように、まとめておくね」など、親のことを考えているという一言も忘れずに
D
Tさんのケース
根気のいる作業ですが、物置の中の物を、「いる物」「置き場所を移動する物」「いらない物」「判断に迷う物」の4種類に分類。親には捨て方の分からない物もあると思うので、いらない物の処分は子どもの出番ですよ

昔は片付けられていたのに、高齢になるにつれて片付けができなくなった─。

「以前は普通にできていたことができなくなるのは、アルツハイマー型など認知症全体の兆候として出やすい障害です」と話す京都府立医科大学神経内科学教授の水野敏樹さん。脳神経の研究者で、認知症専門医として患者とその家族に向き合っています。

〝思い出す〟作業は脳には重労働

「アルツハイマー型認知症では、日々の出来事が時系列で積み重なっていた記憶が一番失われやすいのです。片付けの場所や手順を思い出すことは、実は、脳にとってかなりのエネルギーを必要とする重労働。脳が疲れてしまって集中力が続かず、気が散っているように見られることもあります」

軽度認知機能障害と認知症で片付けにおける違いはあるのでしょうか?

「子どもが片付けようとすると『さわらんとって』『できるから』と拒絶する場合、親には『片付けないといけない』という意識があるということ。これは、まだ自分の行動に対する自覚があるので、軽い症状といえます。一方、子どもの言動や行動に対して反応が薄くなると自覚がない。つまり認知症に進行していると考えられます」

片付けをめぐってトラブルになるのを避けるために、こっそりと処分することもあるかもしれません。

「親が処分に気づいていなければ、問題ないですよ」と水野さん。「片付けられずに散らかっている状態は、脳の処理能力を超えているということ。物が少ない状態、つまり処理するものが少ない状態の方が脳にはベターなんです」

ちなみに、片付けられなくなりやすい場所は、食品の管理を頻繁に行う「冷蔵庫」、物の移動が多い「リビングや寝室」、内容が理解しにくくなる「書類や郵便物の置き場所」なのだとか。

「片付けにおける親子の関係に正解はないかもしれません。ただ、片付けられない親の状態を、仕方がないからとほうっておいてはいけない。かかわりを持ち続けることで、その先の人生の過ごし方にも影響してくると思います」

実家の片付けに苦戦する読者。では、義理の実家への対応はどうしているのでしょう。

古い服や着物、物などが置いてあるので、「亡くなったときに大変だな」と考えますが、捨てるようなことはしません
(タッキー・56歳)

80歳の義理の親は一人暮らし。週末ごとに夫が顔を出して、現状維持ができているか確認しています
(ちょこっとママさん・52歳)

嫁の立場なので口出しや手出しはしません。義理の姉妹が行ったときに、期限切れの食品や調味料を処分したり、細かい掃除や整理をしているそうです
(ピヨママ・40歳)

義父は一人暮らしですが、私たちに全て任されているので、不要なものは全て処分済み。必要に応じて購入しています
(kiyopy・50歳)

京都府立医科大学
神経内科学教授の水野敏樹さん

「88歳で亡くなった母は、アルツハイマー型認知症を患っていました。服を積み上げたまま片付けられないという状況を目の当たりにしたとき、『なぜ?』と言わずにはいられませんでした。認知症は、発症までに10〜20年の潜伏期間があります。片付けができなくなったという兆候を見逃さないでほしいです」

声のかけ方に注意して、片付けができたら喜び合って

「片付けは、もって生まれた能力ではなく、思春期にかけて学習して身につける能力」と話すのは、発達心理学が専門の立命館大学文学部教授の土田宣明さん。自分の行動をコントロールし、段取りを考え、実行し、予想と違う状況になったら調整するという高度な能力が駆使されるそう。

ところが、片付けられなくなると、散乱している物の中から必要なものさえ見つけられなくなります。「例えば、メガネが見つからないから出かけられない場合。出かけなくなると、活動性や社会性が低下し、生活を秩序化する意欲も激減します。片付けられないことで、高齢者の生活は悪循環に陥ります」

そんな悪循環に陥らないためには、どうしたらよいのでしょう。

「声のかけ方に注意を。どのような状況で、何を行い、その結果どうなったのかを確認しましょう。家の中で物を整理し、その結果すっきりできたことを喜び合ったりほめたたえたり。感謝や称賛の言葉は、いくつになっても心に響くものです」



「子どもと親の関係は、感情的になりやすいと思います。そんなときは、一呼吸おいて話すようにしたり、時には第三者のサポートを受けるという工夫も大切です」

このページのトップへ