子どものときから、そして大人になっても、歌は私たちの生活に密着していますね。歌を歌うと楽しかったり、心地良かったり…。今回は、そんな、歌うことで得られる効用について調べました。これからは、もっともっと歌いたくなるかも!?
土曜日の夜、城陽市にある保育園に向かうと、すてきなハーモニーが聞こえてきました。ここが、合唱団「クールジュネス」の練習場です。
この日の練習曲の一つが「念ずれば 花ひらく」。詩人・坂村真民の詩に曲をのせた歌です。皆さんが繰り返し練習しているのが、歌い出しの「念ずれば 花ひらく」、この部分でした。
「思い浮かべてみてください。花がぶわぁっと開くところ。それは、どんな花? 自分なりに想像してみて。南国にありそうな、食虫植物とはちゃうやろうけど(笑)」
高校の音楽教師でもある、指揮者の塩川朝子(ともこ)さんは、ユーモアも交えながらメンバーに問いかけます。さまざまなことに思いを巡らせて歌わないといけないんですね。
「そう、歌うってことは言葉を伝えること。『歌詞にある“それ”って、何のことやろ』『これはいつのこと?』など、自分で想像しながら歌うんです」と塩川さん。
特に大切にしているのが、「それぞれの人が、さまざまな人の人生に照らし合わせながら歌うこと」なのだとか。
「『念ずれば 花ひらく』の歌詞に、お母さんがいつも口にしていたことばを、苦しいとき自分もいつしか口にするようになっていた、という意味の一文があります。
これって年齢を重ねてきたからこそ感じ入ることができませんか。『クールジュネス』のメンバーは、子育てまっさい中の人、仕事をバリバリしている人などいろんな世代の人がいます。中には、親を見送った人も。そういった経験を通し、人生を重ねてきたことで表現できることってあるんです。この歌を高校生が歌うと、また違ってくるんですよ(笑)」
感情を歌にのせることで、歌により深みを持たせることができます。
「その年代に合った歌というのがありますし、同じ曲でも年齢とともにとらえ方が変わっていく。だから、歌うことは一生続けられるんです」
京都市立芸術大学の音楽学部教授・津崎実さんにも、“歌うこととは?”と質問してみました。
「まず、通常の話し声について説明をしましょう。話をする際、実は声のピッチ(高さ)は自然に下がっていっています。これは、肺からの呼気圧が弱くなることで声が低くなっていくからです」
対して歌は─。
「歌うときは、声のピッチを一定に保つことが求められるので、話すときみたいに下がらないようにしなければいけません。これは、とても複雑な体の働きが要求されること。『呼気を一定に保たなければ』『いろんな音の高さを出さないと』と、体の中のさまざまな筋肉の緊張と弛緩(しかん)のバランスを取ることを、無意識のうちに要求しているんです。つまり歌うことは、普段とは違う体の働きが必要とされます。このような体のコントロールをすることが、脳の活性化につながると考えられます」
では、一人ではなく、「クールジュネス」の皆さんのように合唱だからこそ得られるメリットはありますか。「一人ではなかなか歌えない、恥ずかしいという人もいますよね。そんな人が合唱だと、周りの人につられて、勇気を出して声を出せるということもあります。
また、歌を歌い自分の声を出すということは、いわば外の世界、世の中に自分をアピールすること。そして、仲間と共にコミュニティーづくりをすることにもつながります。歌を通して、内向的な性格の人が自信を持ちやすくなるということも考えられるかもしれませんね。
最近は、他者とのつながりが希薄になっていますから、歌を歌う場で人と共有体験ができるということは歌の大きな役割といえそうです」
「クールジュネス」の皆さんは、本当に歌うのが楽しそう!「日常生活では大きな声を出せないから、歌うことでストレスを発散できます。一人では味わえない“浮揚感”を得られるのも合唱の魅力」とは副代表の籾山(もみやま)さん。同じく副代表の松田さんは、「楽譜の世界に入り込むと、それに夢中になって幸せを感じます」。
「クールジュネス」の創立当時(1998年)からメンバーである宮原さんは、「一人ではできないことを、みんなで力を合わせるとできる」と話します。
もちろん歌は合唱だけではなく、一人で歌うこともありますよね。2面では、歌そのものが持つ力について紹介しましょう。